稚魚の会、スターシステム以外の可能性

正式には「稚魚の会・歌舞伎会合同公演 (青年歌舞伎公演)」という会。A班とB班とあるのですが、私はA班を見ました。

国立小劇場で歌舞伎の会。研修生の発表会という主旨なので、私としてはこれまで見ていなかった演目を見ようと思って足を運びました。つまり、あまり期待しないで行ったのでした。ところが、稚魚の会、よかった。

歌舞伎はスターシステムで、役者目当てにその役者がどう演技をするのかを見に行くものだと思っていましたが、名のある役者でなくても、きちんとした演技があれば、十分に面白くて、ドラマとしても面白いということを発見しました。通しで、丁寧に稽古をして、ドラマとして上演するから、見ている方がドラマを実感できるということでしょうか。

大劇場ではなくて小劇場だったのも良かったと思う。舞台と花道が随分近い。当たり前のことですが、芝居をきちんとやってくれるとたいへん、面白い。「一條大蔵譚」で作り阿呆と優れた武将の顔を一瞬にして切り替えた中村東志二郎はなかなかだと思いました。平家を欺くためにバカ殿と思わせていて、実は源氏の再興を願っていて作戦も練っているまともな知将であるという一條大蔵を、口をあんぐりと開けてアホという表情と意志の固い優れたお方の表情をスイッチを切り替えるかのように交互に出してみせる、何とも歌舞伎的で演劇的なパフォーマンスが面白い。とはいうものの吉右衛門がやるともっと当たるだろうなとも思わせるような面白い役柄。吉右衛門が監修していたのですが。もしかしたら、吉右衛門が近い内にやるのでは? やれば絶対に見に行きます。

寿曽我対面の大磯の虎の市川升吉、曽我五郎の市川茂之介、小林妹舞鶴の澤村伊助、一條大蔵譚は、吉岡鬼治郎の市川猿琉、浪花次郎作の市川新十郎、吾妻与四郎の市川升一が良かった。けっこう、みなさんよかったと思う。

稚魚の会、毎月、4日くらいやってくれないだろうか、と思う。


歌舞伎が、家筋が非常に重要で、実力よりも、いい家に生まれてはじめて重要な役をやることができるということがほとんどだと思いますが、今回の若い歌舞伎俳優たちに成長して、家筋のしばりを乗り越えて、面白い歌舞伎をどんどん作り上げていってほしいものだ、と思います。ここで一回見た役者さんたちをこれからも注目していきたいと思います。