ある師の死 受け継ぐもの

公表をさけているようなので、あまりおおぴらに言うべきではないということなのかもしれないのだけれども、私が、出版人として物心をついた際に、出版の世界で生きはじめて時に、そのはじまりをそもそも与えてくれたある方がこの夏になくなったのである。氏名を明示はしないが、私なりに振り返ってみたいと思う。


私が独立する前に5年間在籍していた出版社があって、私は基本的にそこで出版人として、編集者として、社会人としての最初の大事なことを学んだと言っていいと思う。現在、ひつじ書房のスタイルの大きな部分はそこで学び、ある部分はかたちを変えて継承し、ある部分は批判的に乗り越えようと思ってあるスタイルを作っていたりと言うことがある。


違うやり方をしているところも、同じやり方をしているところも、両方とも影響を受けているということである。


たとえば、資料よりも著作を優先しているところ。国文学の学術出版社の中には影印本や索引集を優先する出版社もあるけれども、そんな中で私は著作を優先していると思う。それは引き継いでいるところと言えるだろう。教科書よりも著作を優先するところも同様である。その研究者にとっての代表作を出したい、ということは、そこで受けた財産のように思う。


ひつじ書房が、研究室訪問を行っているところも、影響を受けているところだろう。営業という意味もあるが、著者と出会いたいということである。地方で学会があれば、数日研究室を回る。これも、他の出版社ではあまり行っているところがないと思う。これも、著作を優先するということとも関係があるかも知れない。できた本はきちんと売っていこう、そういう機会を活かして、著者となるべき方と出会おう、という姿勢については、受け継いでいるといえるのではないだろうか。



これから、何回か、振り返ってみたいと思う。