草稿 学術出版助成と学術出版 その1

草稿 学術出版助成と学術出版 その1

大学出版部協会の機関誌に掲載する文章を書いております。その前半部分をアップします。



学術書を刊行している出版社のことを学術出版社といういい方をするわけだが、実際には総合的な学術出版社もあるが、多くの場合は、得意とする学術ジャンルがあると思われる。ひつじ書房は、言語学、日本語の研究、や英語や他の外国語の言語研究の書をもっぱら刊行しており、言語研究と関係して、言語政策、言語教育に関する研究書も刊行している。研究ジャンルによっても状況や条件も違っている。私の知っているジャンルの研究についての話しになりますことをお断りしておきたい。

それでも、まず学術出版というものはどういう現状にあるかということを概観しておきたい。そのためにおおざっぱに学術書という「商品」の市場規模を説明したい。たいていが、A5判サイズで、部数として少ない場合は250部、多い場合でも1500部である。ひつじ書房で一番多いのは600部から800部の間である。600部で8000円という比較的一般的なもので市場規模を考えてみる。

600部×8000円であるから、本体価格の総定価は、480万円ということになる。ひつじ書房の場合は、問屋さんに卸す掛け値が67パーセントであるので、卸値の総額は320万円ということになる。総定価については、800万円くらいに設定している出版社が多いのではないか、その点ではひつじ書房労働生産性の低い総定価設定と言うことになる。働いても働いても、じっと手を見るという可能性が高いと言うことだ。

一方、市場性のイメージを掴んでもらうために新書で比較してみたい。1冊700円という値段であるが、2万部は刷っているということである。とすると単純に考えると1400万円ということになる。ひつじ書房で刊行している学術書の経済的な規模は3分の1ということになる。この経済的な規模について、やはり小さいということが言えるだろう。

もう一つ重要なことは販売速度である。刊行した部数がどのくらいの時期で売れるのかということですが、新書の場合、数ヶ月と言われています。それに比しまして、学術書は2年で売れ切れたら、幸いというところでしょう。新書の場合、在庫も売れなければ断裁してしまうということもあるわけですが、2年と3か月を比較すると8倍ということになります。

経済的な規模が3分の1で売れきれるまでの期間が8倍と言うことは、1月の経済的な規模としては、24分の1ということになります。経済的な規模が小ささがお分かりいただけるのではないでしょうか。