自費出版と自費印刷のちがい

自費出版ということばがある。この自費出版というものがよくわからない。自費を少しでも出せば、自費出版ということになるのだろうか。普通、本を出した時に献本ということはある。著者から、こんな本を出しました、ということを知り合い、先輩、書評家に送ることであるが、本を1冊でも購入すれば自費出版ということになるのだろうか。これはちょっとないだろう。

自費出版ということを考えてみる。ここで重要なのは「出版」という要件を満たしているか、ということである。では、「出版」というのはどういうものだろうか。

1)本という物理的な存在の製作
2)本として十分な体裁
3)本としての存在が世間に知られること
4)本として本屋さんで手にはいること(注文可能な状態と多くの書店で店頭で手に入るということは、大きな違いであるが、とりあえず前者とする)
5)引用されたり紹介される
6)本として十分な内容

1)本という物理的な存在の製作
だけであれば、印刷製本だけでできることである。しかし、2)から4)までのことを実現するためには、日頃からの出版社なりの継続的な積み重ねが必要になる。

5)や6)については、著者の執筆内容とそれに対する編集者のアシストが必要であり、そこにはプロフェッショナルな経験と知性が必要になる。

2)から6)が実現できなければ、本当の意味では出版物といえないと思う。私の考えでは、制作費に100万円掛かるのであれば、それと同じ額は編集と出版のバックヤード処理として必要です。また、製作については、それなりの印刷所に外注すればすむはずなので、そんなに重要ではないのではないでしょうか。(優れた印刷所、優れた製本所、優れたデザイナーの力量を過小評価するという意味ではありません。)もっと重要なのは、出版のバックヤード処理をきちんとこなすということと編集のクオリティです。出版のバックヤード処理がきちんとしてないと書誌データもオンライン書店に届けられないですし、必要なところへの告知もできません。

はじめて本を出すという方であれば、原稿のチェックやアドバイスの労力がかなりかかるというのが、実際でしょう。たとえば、5割り増しとすると150万円です。制作費とあわせて250万円です。もし、自費印刷でなく出版であるのであれば、そのくらいはかかるというものです。

ここでとても重要なのは刊行リストです。たとえば、音楽評論の内容の出版をしたいのであれば、その出版社にそのジャンルに詳しい人がいないければ、プロフェッショナルなアドバイスは得られないことになります。そのジャンルに詳しい人がいるかどうかは、そのジャンルの本が複数でているかということを見ればよいということです。これはオンライン書店やbooks.or.jpで検索してみれば簡単にわかります。刊行リストがバラバラであったり、首尾一貫性がない、あるいはまったく規則性がない場合は、ジャンルがない、あるいはジャンルの専門家がいないということですので、自費出版といいながら、自費印刷に近いと言うことになります。出版ではないということになります。専門家がいる出版社で負担が100万円とジャンルのない出版社で、100万では全く意味が違います。

ところが、編集出版の機能について出版社はアカウンタビリティを果たしていません。上記のようなことについて、まとまった文章はネット上にも本でも存在していないでしょう。説明していなければ、分かってもらうこともできないでしょう。

専門書の出版社が100万という時は、250万円のうちの100万円です。層でない場合、100万しかかけない中での100万円です。編集もしない、在庫も持たない、書誌データも作らない、営業もしないでの100万円の中の100万円というの何でしょう?しかし、残念なことに2)から6)までを説明しないのでその区別がわからないことになります。

私は、もし自費出版というのなら、編集付きであるべきです。そうでなければ、自費印刷と呼ぶべきでしょう。編集という仕事がついているかどうか、そのことが重要なのではないでしょうか。正確に言うと編集と営業と総務がついているのか、単なる製作代なのかということです。

ひつじ書房が取り組んでいる研究書は、単純な商業出版ではありません。著者の先生に買っていただくこともありますし、ファンドを取ってくることもありますし、教科書として使っていただくこともあります。ファンドは、日本学術振興会研究成果公開促進費ですが、不十分なものですが、助かっています。そういうものを取ってくることも場合によっては必要です。ただ、その内容を刊行したいと思ったから、助成金を取ってくるのであって、助成金をもらうことが目的ではありません。本来の意味での共同出版だと思います。ただ、この言葉が手あかにまみれてしまったので今は誤解を生む言葉になってしまいました。

この言葉に詭弁があります。10年前まで本を作るのに物理的な制作費だけで200万近く掛かったものが、DTPなどによって、100万円くらいでできるようになりました。それで、自費出版の希望者に200万円のうちの50万円を出版社がリスクを取るから、150万円の負担でいいと言って勧誘しています。

私はきちんとした出版社であれば、1)から6)までに関わるのであれば、150万円が高いとは思いません。きちんと説明して納得するのであれば、妥当なものです。しかし、そうであれば編集などに関わる部分についてきちんと説明すべきです。どうして説明できないのかあるいはしてこなかったのか。これは、大きな問題だと思っています。

そのためには出版というシステムについてまともに説明ができなければなりませんが、多くの出版社はその言葉を持っていないでしょう。

リンク
完全な自費出版から完全な印税出版までのスロープ図
http://www.hituzi.co.jp/syuppan/

はじめての自費出版
http://jihisyuppan.1pun.net/

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