『本を生みだす力』 一編集者一事業部

『本を生みだす力』は、一人出版社「ハーベスト社」、中規模出版社(12人)「新曜社」、大出版社(100人)「有斐閣」、財団型学術出版社「東京大学出版会」の比較研究を行っている。


一人出版社は、社長が全てをやっていて、新曜社は「一編集者一事業部」を標榜している。


ひつじ書房は、この中間の規模。新曜社は編集者が優秀なのだろう。一人一事業部というのいうのはかなり高度なことだと思う。1人1人が、それぞれ企画を立て、それのマネジメントを行い、売上げの予測を行っていて、最終的に採算を採るように持って行っているということである。


1人1人がそういう「事業部」たり得ているというのは重要なことだ。学術出版社の編集部のあり方としては、うらやましいところ。これは高度なことである。


そのような体制が実現するためには、人的なステップがあるだろう。


1 仕事人として仕事が十分にできること
   ↓
2 商売人であること
   ↓
3 編集において経営者的な感覚と実際に遂行できる能力と実力があること



私は、その基礎、ベーシックな部分が、学術出版の商売人としての心得、ということだと思うのである。


しかし、翻訳書についての位置づけが、社会学と言語の世界は違いますね。みすず的な、翻訳と啓蒙的な書籍を混ぜた学術啓蒙出版社という存在は、社会科学系。人文科学系でも、思想系で、可能なことである。言語系文学系ではあり方が違ったものとなる。


ひつじ書房としてはこれまでの伝統、翻訳書を重点的に刊行するということとが違った路線を歩んでいきたいと考えている。



1 欧米であれば大学出版が出しているようなモノグラフ的な研究書の刊行
2 英文を和訳ではなく、日本語の研究を欧米語に翻訳して、輸出型の学術出版


商売的には、『本を生みだす力』に出ている学術出版よりも困難な道であろうと思う。であるがゆえに、商売人としての才覚はいっそう優秀なものが求められているということになる。だから、取材もしないで、情報が公開できると思う程度のレベルでは困惑してしまう。



さて、『本を生みだす力』で重要なのは、学術コミュニティの中で評価の基準となってしまっているRAE(Research Assessment Exercise)の問題を取り上げたところだと思う。


出版人から研究者まで、それから学術書の出版に関わる人全てが読むべきである。