書くことの倫理 オルテガ『大衆の反逆』

ひつじ書房20周年シンポより。


前田塁さんの「未来を食いつぶしている」という発言。岡川さんの「銀行が収益源を見つけるためにリスク評価が十分ではない商品を拙速に市場化した。リスクを過小評価していたかもしれない」という発言が、まさに倫理の問題と私は感じました。


前田塁さんの「未来を食いつぶしている」というのはオルテガの『大衆の反逆』からとのこと。私は個人的に買った本をスキャンしても構わないと思うのだが、それを自分が炊事していないのに「自炊」ということばを平然と使って、自慢げであること。


自分で作っていないのに「自炊」というこころの持ちようが、未来の遺産を食いつぶしていることの気が付いていない、という点で、前田さん発言が非常に賦に入ったのです。 何かお母さんに夜ご飯を作ってもらっているのに、電子レンジでチンしただけで、自炊と呼ぶような、お母さんなら怒るだろう、こころの持ちようがどうにも子供じみているような印象を受けます。


「このあらゆる義務からの逃避という事実が、われわれの時代に一種の「青年」主義が形成されるにいたったというばかげているとともに破廉恥でもある現象を解明してくれるであろう。この青年主義ほどわれわれの時代のグロテスクな面を代表しているものはないのではなかろうか。人々は、青年は義務の遂行を成熟する暇で無期限に延ばすことができるのだから、義務よりも権利を多く持っているのだと聞いて、滑稽にも、自分たちは「若い」のだと主張しているのである。偉業をなすとか、あるいは、すでになしたとかが、青年に冠しては問題にされたことはいまだかつてない。青年はつねに信用貸しで生きてきた。この信用貸しは人間性そのものに根ざしているものであり、青年ではない者たちが、青年に与えたアイロニックであるとともに愛情のこもったえせ権利でもあったのである。ところが、今日若者たちがそのえせ権利を真の権利とみなし、しかも、すでに何かを成し遂げた人にのみ属するその他のいっさいの権利をも自分のものとするためにこそそうした態度をとっているということには、まったく唖然とせざるをえない。」(p273 『大衆の反逆』 ちくま学芸文庫