国立国会図書館の資料デジタル化に関する説明会

忙しい中、国立国会図書館の資料デジタル化に関する説明会に参加してきました。




2009年9月4日 出版社を対象とする国立国会図書館の資料デジタル化に関する説明会のお知らせ

 平成21年6月に、国立国会図書館が原資料の保存を目的として行う資料のデジタル化に関する著作権法改正がありました。国立国会図書館では、この改正を視野に入れて、保存のための資料のデジタル化及びその利用に関し、平成20年度から出版者団体、著作者団体等と関係者協議会を行い、平成21年3月に第一次合意(PDF: 134KB)を取りまとめました。
 また、平成21年5月には、国立国会図書館の資料を大規模にデジタル化する補正予算が成立しました。
 国立国会図書館では、資料デジタル化を関係各位の御理解のもとに進めてまいりたいと考えております。そこで、出版社各位の御理解、御協力を賜るため、以下の要領で出版社を対象とする説明会を開催いたします。

日時
平成21年9月17日(木) 15時〜16時30分
場所
国立国会図書館新館講堂(東京都千代田区永田町1−10−1)
対象
出版社の方(出版実務に携わっておられる方)
内容
関係者協議会第一次合意について
補正予算によるデジタル化について
デジタル化候補雑誌リストの公表及び照会について




著作権法の範囲内、従来の解釈の範囲内で行うと言うことで、著作権が残っている著作物について公共図書館や個人へインターネットを通じて配信するということはない、ということでした。

少々あっけないというか当たり前の回答でしたので、わざわざ行くこともなかったかも知れません。大勢が参加していて、出版業界が関心を持っていることが実感できました。それはやっぱり行ってみないとわからないことなので、行った甲斐はあったと思います。

考えましたのは著作権が切れているものはどんどん公開すると言うことで、複製本や古い本のCDやDVDを出している復刻・複製をコアなビジネスとしている出版社はよほど工夫をして付加価値を作らないと難しいと思いました。実際に一番最初に質問されていたゆまに書房さんのようにそのジャンルで生きてきたところは厳しいのではないだろうか。もうすでに手を打っているのかもしれないと思いますけれども。

また、127億円もの補正予算がついたということでデジタル化するということでしたが、単に画像化することだけしかしないわけです。近世史や近世文学の研究者のポスドクの人々にテキスト化して注釈をつけてもらうとか、画像化するだけなら、IT業界にしかお金は落ちないわけです。研究者を支援するようなお金の使い方はできないものだろうか、と思いました。

これは以前に近代美術館が貴重な映画を上映してくれたのはいいけれども上映だけで、解説も何もなく、解説する人にお金を払えば、そのジャンルの研究者を養成できるのにと思ったことと近いですね。実際に本を読んで500文字でもいいので解説を付けるというようなことをするべきなのではないか。図書館の機能で重要であるのに実感されていないこととして、リファレンスとそれを支える2次情報の作成・蓄積ということがあることを考えるならば、単なるデジタル化だけではなくて、リファレンスの機能のためにも必要ではなかったか。(この文面は9月25日に追加しているのだが、このことは質問しても良かったかも知れない。)


あと、ネット配信というような誤報が流れたのは、長尾先生のお考えを館の方針と間違って報道した新聞記者が、困ったモノであるからと思いますが、長尾先生の提案も検討するに値すると思います。出版社に対する経済的な支援とともに、公共図書館での受信を可能にするというやり方もあったと思いますので、質問しようかなとも思ったのですが、本題とは違うのでしないで帰ってきました。

国会図書館の方は、日経新聞の記事が誤報であったと言っていましたが、検索するとこんな記事もあります。


国会図書館、書籍をネット配信へ--利用料は1冊数百円程度に

誰でもインターネットで書籍の内容が読めるようになれば、本の売り上げが減り、出版社のビジネスに悪影響がでる恐れがある。そこで長尾氏は、デジタル化した書籍のデータを国会図書館公共図書館内では無料で公開する一方、館外に配信する場合は一定のアクセス料金を課す案を披露した。


長尾氏が示した、デジタル化した書籍データの配信案
 長尾氏の案はこうだ。まず、「電子出版物流通センター」という団体を設立し、国会図書館から無料で貸し出された書籍データを館外の利用者に配信する。その際、利用者からアクセス料金を徴収する。料金については、「交通費に相当する適当な金額」(長尾氏)といい、数百円程度となる見込みだ。その徴収した代金は、電子出版物流通センターが出版社などの権利者に分配する。さらに、書籍閲覧サイトに広告を掲載し、その広告料金を権利者に分配する考えもあるという。

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20398695,00.htm



2009年8月7日  平成21年8月6日付け日本経済新聞の記事について

平成21年8月6日の日本経済新聞朝刊に、「国会図書館の本 有料ネット配信」と題し、当館が日本文芸家協会日本書籍出版協会との共同事業により、デジタル化資料を有料配信するという記事が掲載されました。
 その内容は、事実と異なるところがあります。
(中略)
3 以下の点で、本件記事は、事実と相違すると考えます。
(1)当館は、記事に掲載されている「協議会」の主体でも、またデジタルデータ配信の主体でもなく、民間等が設立する(公共目的の)団体にデジタルデータを提供する仕組みを検討している段階であること。
http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2009/1187666_1393.html



8月7日に日経新聞の記事が誤報であると言われているのに8月21日に長尾先生の記事をどうどうと載せるCNETとはどういうものなのだろう。国会図書館に裏を取ろうとしたのだろうか。現時点では、国会図書館の考えではなくて、長尾先生の個人としてのお考えと言うことになるのだあろう。その齟齬に問題はないわけではない。ネットで発言している人の中には、残念ながら、補正予算によるデジタル化の実際の計画と長尾先生の個人としての発言の齟齬を楽観的に無視して語る人が多いようだ。そのことは、堅実ではないと思う。週刊誌を出しているような出版社がその当たりの齟齬を取材の気分で突っ込んで質問していたら、面白かったかも知れない。残念。


あり方として、出版への補償を、設けた上で伝送権まで許可するという方向に著作権を変えるというあり方もありえる。このためには、出版の社会的な貢献の意味というものの一定の考察が必要になるだろう。韓国はオーマイニュースの例のように、ネットの世界に振れが大きすぎるとも思うけれども。


海外韓国学司書ワークショップ」と「RISS INTERNATIONAL」説明会への参加―出張報告 : アジア情報室通報第5巻第1号

韓国の著作権法では、発行から5年経過すれば、他の図書館などで閲覧するための資料のデジタル化や伝送が可能となり、それに伴う図書館補償金制度も設けられている。講師は、法や制度を実効性あるものにするためにも、著作権を保護するための技術的なバックアップが重要であると強調していた。また、著作権保護の考え方を司書が教育者となって広めなければならないとも述べていた。

http://rnavi.ndl.go.jp/asia/entry/bulletin5-1-2.php